News

【FTIメンバー紹介:ベンチャーパートナー・西山啓次】大手製薬からVCへ 精神疾患の創薬をゼロから立ち上げスタートアップ設立を目指す

株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)のメンバー紹介をする連載です。今回は、スタートアップ設立を目指し、大手製薬企業からFTIベンチャーパートナーとして参画した西山啓次(にしやま・けいじ)にインタビュー。スタートアップ設立を志したきっかけや、精神疾患分野における課題解決に向けた日々の活動への思いを聞きました。

▶︎メンバー紹介記事の一覧はこちら

「創造的であることが一番楽しい」


ーーこれまでの経歴、スタートアップ設立を目指したきっかけを教えてください。

大学の学部生時代は分析化学教室に所属し、生物物理分野の一分子イメージング研究を専攻していました、しだいにヒトの脳や心への関心が高まり、修士以降は脳神経細胞の分子生物学を専門に研究する日々を過ごしました。卒業後は武田薬品工業で約16年間、うつや統合失調症、アルツハイマーなどの中枢神経系疾患について創薬研究を行い、その後はヤンセンファーマ、ノバルティスファーマで7年間、臨床開発に携わりました。

そうしたキャリアを通して、どんなものが薬になるのかというところから、実際に上市するまで創薬の一連の流れをみたことで、その一通りを自分でゼロからやってみたいと思うようになりました。それがスタートアップ設立を志したきっかけです。

また、ヤンセンやノバルティスでは精神疾患に加え、がんや循環器系に対する医薬品の臨床開発も行っていたのですが、改めて自分は「サイエンスやテクノロジーを通じて、精神疾患をもつ人々が生きやすくなること」に貢献したいと思うようになりました。それには、双極性障害を抱える家族がいることや、うつによる自殺を防止するような薬剤の臨床試験を検討した経験が背景にあります。自分の専門性と身近な問題が合致していた分野が中枢神経系でした。

ーー創業を目指しながらVCであるFTIに参画した理由は?

根本的に、私のなかで「創造的であることが一番楽しい」という思いがありました。コンセプトを考えてゼロのフェーズから作り上げていくことに意欲が湧いてくるんです。ですが、いきなりスタートアップを始めるのは非常にリスクが高いということも承知していました。

そんななかで出会ったのがFTIでした。他VCが企画するプログラムなどにも参加していたのですが、FTIはカンパニークリエーション(VCと研究者が協働して法人設立し、創業時にそのVCが出資すること)の実績が豊富であること、老舗バイオVCとしての評判を周りから聞いていたこと、最初にコンタクトをとった桐谷さんの人柄やキャラクターに惹かれたことなどがきっかけで、参画を決めました。

また、国内VCではめずらしい「ベンチャーパートナー」というポジションがあることも貴重だと感じています。

新規ビジネス創出に向けシーズ探索に注力

ーー現在の活動内容について教えてください。

現在は事業構想大学院大学に通いながら、スタートアップ設立に向けたソーシング(事業化候補となる研究シーズ/研究者探し)やインキュベーション活動(投資前の事業計画策定の議論など)、投資先の支援などを中心に行っています。

FTIでは高いフレキシビリティを持って活動できていると感じます。まず力を入れているのは、中枢神経系のシーズを探すソーシング活動です。社会的ニーズの高いうつ、双極性障害、統合失調症、アルツハイマー、ALSの疾患にフォーカスし、課題解決のためになり得るシーズを探しています。見つけたシーズと自分のコンセプトとを掛け合わせた新規ビジネスの創出を目指しています。

また、投資先のInterim CEOとしての活動にも奮闘しました。様々な事柄に自分で仮説を立て、検証できるやりがい・楽しさを感じる一方で、ヒト・モノ・カネ、さらに時間や情報がまったく足りない世界で、社員や関係者の心情なども同時に汲み取りながら結果を出すということの難しさや責任を感じました。スタートアップの真の価値とリスクを体感し、それらを深く考える良い機会をいただきました。

現在所属する大学院では、これまで関わってきた製薬会社の人々とは異なる業界の方々(デザイン系のクリエイターなど)と学んでおり、私とは違う思考パターンでビジネスを考えているのがとても興味深く、ワクワク感を持ってゼロイチで事業を作る基礎を学んでいます。自分のアイデアは「全然面白くない」とまったく逆の方向性を提示されることもあり、「そもそも自分は楽しいのか?」と自問することもあります(笑)。

創薬とは異なる領域の幅広い人々にも面白く、社会的意義があると思わせられるビジネスを探していくというチャレンジをしたいと思っています。

ーー現時点で関心のあるシーズやアイディアはありますか?

例えば、非常に興味深い知見や臨床データである一方で、まだ活用方法が分からなかったり、“本当か嘘かわからない”データに対して、「では事業にするにはどういったコンセプトが必要か?」ということを考える。そういう仮説生成に一番の面白さを感じますね。“オタク”と呼ばれるレベルまで知識量を増やしながら、本気で検証したい仮説を見つけないといけないとも思っています。

今後は、スタートアップ設立に向けたソーシング活動、事業構想の立案、多様な価値観をもつ方々とのネットワーキングに比重を置き、全力で楽しみながら、新たな社会的価値を生み出していきたいと思います。

“価値観の変え方”のヒントをVRから

ーー休日の過ごし方、趣味について教えてください。

休日は、ダイバーシティ&インクルージョンや障害者福祉関連の研修に参加しています。これもスタートアップ設立に向けた活動のひとつで、精神障がい者が抱える課題である「安定した就労」をどう実現するかを考えるために参加しています。

精神障がい者の安定した就労には、障がい者への支援だけでなく、職場の上司や同僚、家族などの理解や協力が不可欠です。しかし、そうした周囲の人へのアプローチがあまり実現されていないことも大きな課題だと考えています。

私の仮説としては、好奇心や楽しむことを入口とし、患者さんの日常世界をVR体験することや共創する体験を通じて、職場の上司や同僚の理解促進、さらに価値観の変化に繋げられないかと考えています。私自身も自宅でVRの3D空間で行うゲームをしたりしています。

ほかには、アイドルが好きな娘と一緒にコンサートに出かけたりもします。家族との時間も大切にしながら、スタートアップ設立という目標を実現するために活動を続けていきたいです。