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【投資先対談】不屈の精神でともに挑む 患者ファースト創薬で超高齢社会に光を|Neusignal Therapeutics株式会社
2024.12.18
アルツハイマー型認知症の治療薬開発に取り組むNeusignal Therapeutics株式会社(以下、Neusignal)。株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)は、国立大学法人東北大学准教授の森口茂樹先生による研究シーズの事業化に向けカンパニークリエーションから携わり、2022年4月の創業後も追加投資を行うなど、医療・ヘルスケア分野への強みを活かしたハンズオン支援を行ってきました。
今回は、Neusignal創業者で現在は特別顧問を務めている森口先生、代表取締役CEOの吉田欣史さんをお迎えし、同社の社外監査役でもあるFTIプリンシパル・木村紘子との対談を通して、投資実行の経緯やNeusignal側から見たVCとの関わりについて話を聞きました。
木村のインタビュー記事はこちら
患者とその家族に寄り添う創薬
FTI木村:Neusignalが治療薬の開発に取り組むアルツハイマー型認知症は、いまだアンメットメディカルニーズが高い疾患の一つであり、高齢化が進む現代社会において今後ますます多くの人々に画期的な治療薬が求められると考えられます。森口先生は長年にわたりこの分野の研究を続けて来られたなかで、この治療薬の実現をどのようにお考えでしょうか?
Neusignal森口先生:大手製薬企業が成功できていない研究課題をいち大学・スタートアップができるのかと問われますと、正直挑戦してみないとわからない部分もあります。
ただ、Neusignalが現在ターゲットにしている低分子は、従来にない新しい作用機序で神経細胞を修復することができるものと期待をしています。日本の創薬は以前より中分子や高分子よりも低分子に強い印象を持っておりますので、私もその可能性を信じる一人です。
FTI木村:記憶障害を含む認知機能の低下などの中核症状だけではなく、徘徊やうつなどの周辺症状も抑えられるというのが特徴ですよね。また、経口摂取が可能な点など、真に患者さんに寄り添う薬を開発されています。
Neusignal森口先生:これからの社会では、ただ寿命を延ばすだけではなく“脳の健康を維持する”ことが重要だと考えています。
ご家族のみなさまの介護負担を考えますと、私たちが取り組む創薬は患者さまだけでなく、その周囲のすべての人に寄り添うものになると期待しています。
起業家と投資家という枠を超えた「良い距離感」
FTI木村:森口先生は長年この研究に取り組んでこられましたが、スタートアップの起業に際して、どのような気持ちで取り組まれていますか?
Neusignal森口先生:研究成果を社会実装することは研究者の一人としての悲願でもあります。Neusignal創業初期から投資家であるFTIのみなさんとは良い関係・距離感を保つことができていると認識しています。
FTI木村:ただ会社の話をするだけでなく、本当にいろいろな話をさせていただいてきました。私個人も、投資家とスタートアップとの距離感は、その会社の事業フェーズや開発対象、開発段階に応じて変わってくると思っています。
Neusignalはシーズが東北大学の森口先生のアイディア・化合物であるということでサイエンスの比重が高く、基本的に森口先生に私たちが研究内容について深く伺うというのが起点となります。そのため、きちんと腹を割って話せる関係性、人と人との繋がりを持つことを重視し、信頼関係を築けるよう密なコミュニケーションを意識してきました。
一方でサイエンスから進んで開発フェーズに移行している会社の場合は、対個人というよりも対会社という意識で、コミュニケーションの取り方を変えています。
Neusignal森口先生:木村さんだけでなくFTIのみなさんからはとても熱い想いを感じています。それにしっかりと応えたいという思いで研究開発を進めています。AMEDに採択されたのもFTIのみなさんのご支援によるものが大きく、アルツハイマー型認知症創薬による国家プロジェクトでもありますので、これからも邁進していきたいですね。
新薬開発に感じる「ご縁」
FTI木村:吉田さんは森口先生をはじめとする創業者がすでにいるなかで、創業1年ほどが経った頃に参画されました。以前は日立化成(旧昭和電工マテリアルズ、現レゾナックHD)にいらっしゃいましたが、比較してスタートアップの代表というのはいかがでしょうか?
Neusignal吉田さん:大企業のスピンアウトベンチャーに携わった経験があり、その当時も先にメンバーが数人いたところから関わっていたので、とくに抵抗感などはありませんでした。
大企業の新規事業で「絵(事業計画)を描いてくれ」ということは何度もやってきましたが、そうした環境と現在でまったく異なるのは、資金調達です。コーポレートから予算を引っ張ってこれた大企業時代とは違い、何かをするために外部の投資家からの調達が必要になってくるというのは、それまでやったことがない大きなチャレンジでした。
今後も一生忘れられないと思うのは、取締役代表になった日に森口先生とほぼ飛び込みで札幌まで営業に行ったことですね(笑)。それが最初の経験であり、そこから歯車が回り始めたという感覚があります。
シードラウンドでは大きめの開発資金を集めることができ、そのおかげで問題があった委託先を変えるという決断をすることもできました。FTIのみなさんのサポートには感謝しかありません。
FTI木村:会社としての規模が大きくなるなかで、事業にかける想いにはどういったものがありますか?
Neusignal吉田さん:そもそも自分自身がいま新薬開発に取り組んでいるということに“ご縁”を感じているという気持ちが大きいです。
去年の夏に初めてFTIの竹内さん(FTI取締役/Neusignal社外取締役)や森口先生にお会いしました。前職では再生医療の事業化やグローバル展開に携わっていましたが、当初は極めて限られた患者だけが手に入れられるモノが、徐々に世界に流通するようになりました。自身の残りの社会人人生を考えたとき、「残りあと10年くらい。新たなチャレンジをしたい」と思っていた矢先の出会いでした。お二人の熱意に感化され、一緒にやっていきたいと思ったのが参画のきっかけです。
また、もう一つ根底にあるのは、私自身が新薬で生まれることができたという経験です。子供を産むことが難しいと言われていた母が当時の新薬のおかげで私を授かり、こうして今存在できているという事実が、私が一環してライフサイエンスやヘルスケア業界に携わっている理由なのかもしれません。そうしたご縁をお返ししたいという気持ちがあります。
メンバーの責任範囲を“広く”すること
Neusignal吉田さん:正解のないところを突き進むうえで、限られたヒト・モノ・カネのなか、限られたアクティビティで達成に向かうことが重要だと考えています。
経営を一任されている身として、そうした部分を理解してもらう難しさや、メンバーと膝を突き合わせて対話を重ねる重要性を感じています。
FTI木村:他のスタートアップでも、とくにアーリー段階ではそうしたバランスの議論になることが多いですね。
アカデミアのサイエンスを魅せるという“おもしろい部分”も含めた、研究として基本的に進めるべき部分と、開発上、また薬事上“必ず押さえなければならない部分”の、どの要素を優先して進めていくか。フルセットでやるのは難しいため、最低限押さえなければいけないところや資金との兼ね合いが工夫のしどころです。組織作りをするうえで心がけていることなどはありますか?
Neusignal吉田さん:スタートアップでは、スピード感を持った意思決定ができることが大切です。腹を決めることが求められる場面では、専門性が高いからこそ決断できることもあると思います。一方で専門性が高すぎるゆえの弊害もあります。周りとオーバーラップできる人・マージできる人というのは、そんなに多くないと感じているのも事実です。
Neusignalでは、メンバーの責任範囲を広くすることで、自然と周りとのコミュニケーションを取りながら事業を進めていけるような体制を整えるようにしています。各々が自らの専門分野を持ちつつ、うまく周りをサポートできるようにしていますね。
ファーマができないことをスタートアップで
FTI木村:吉田さんが参画された頃の投資家はFTIだけでしたが徐々に増えてきていて、今後もさらに規模が拡大していくと思います。ステークホルダーとの関わり方で意識されていることはありますか?
Neusignal吉田さん:キャリアや年齢関係なく、対等な関係でいたいと思っています。意見を真摯に聞ける状態であり続けたいです。
また、Neusignalは資金が潤沢にあるところからサポートを得ることを目的とするよりも、会社の存在意義やビジョンに賛同してくれる人を地道に増やして、“ドラゴンボールの元気玉”のように大きくしていくような状態が合っているような気もしています。自分自身がそういった応援のされ方が好みだからかもしれません。
そういう意味では、FTIは想いに共通するところがあり、同じ目標に向かっていくというベクトルが合っていると感じています。
Neusignal森口先生:私たちが取り組んでいることは、製薬企業がやっていることと同じことをしてもうまくいかないと感じています。「ファーマでできないことをスタートアップで汗をかいて頑張る」ということをしていきたいです。
FTI木村:そのためにも、お互いに言いたいことを言い合える関係、リスペクトの気持ちを持って議論を戦わせることができる関係で、今後も居続けていきたいと思います。
●Neusignal Therapeutics株式会社
森口先生の研究成果をもとに、中枢神経系(CNS)疾患に対する治療薬の開発を行う東北大学発スタートアップ。なかでも高齢化に伴い急増する一方で依然として世界的なアンメットメディカルニーズ領域のアルツハイマー型認知症について、新規作用機序を有する低分子医薬品の開発に取り組む。経口剤として安定供給でき、在宅での治療を可能とする創薬を通じて、患者の治療満足度向上、介護者の負担軽減、国家医療費の適正化への貢献を目指している。
https://neusignal-tx.com
代表取締役CEO 吉田欣史さん
静岡大学 理学部 化学科卒業。早稲田大学大学院 経営管理研究科卒業(MBA)。長年、外資系ヘルスケア・ライフサイエンス企業でマーケティングや事業開発に従事。前職は、日立化成(旧昭和電工マテリアルズ/現レゾナック)再生医療事業部 事業開発部長、Minaris Regenerative Medicine(上記の子会社)事業開発部 事業開発部長を歴任。2023年Neusignal Therapeutics株式会社 代表取締役に就任。
創業者/特別顧問 森口茂樹先生
認知症・精神疾患を専門とした脳科学者。ノースウエスタン大学医学部(米国)留学時よりアルツハイマー病創薬研究をスタート。2001年九州大学大学院博士後期課程修了。2004年に東北大学大学院薬学研究科(薬理学)に着任し、カルシウムシグナル賦活化を標的とした認知・精神疾患研究に従事。2015年よりアルツハイマー病脳糖尿病仮説に着目した創薬研究に着手し、本開発品を含む2件の特許を出願。2019年より医薬品開発研究センターにてP.I.(同准教授)。2022年Neusignal Therapeutics株式会社を起業。
●株式会社ファストトラックイニシアティブ
「Capital For Life ベンチャーの力を、いのちへ、くらしへ」をミッションに掲げ、バイオテック・ヘルステック領域に特化したベンチャーキャピタル・ファンドの運営を行う。日本発の卓越した技術・事業シーズを持つベンチャーへのハンズオン支援に注力し、独創的アプローチによる世界規模での新規市場創出を目指している。
プリンシパル 木村紘子
東京大学理学部生物化学科卒業。同大学大学院理学系研究科修士課程修了。同大学大学院医学系研究科博士課程修了。博士(医学)。株式会社シグマクシスで経営コンサルティング、M&Aアドバイザリー活動に従事。2013年よりFTIに参画。2017年3月まで東京大学大学院薬学系研究科特任助教を兼任。監訳書に、「アカデミア創薬の実践ガイド スタンフォード大学SPARKによるトランスレーショナルリサーチ」(東京大学出版会)がある。