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【投資先対談】「献便」で切り拓く新しい未来 かけがえのないチームでFMTの社会実装に挑む|メタジェンセラピューティクス株式会社(後編)

投資先対談 MGTx

マイクロバイオームサイエンスを活用し、腸内細菌移植療法(FMT)に用いる製剤開発など医療・創薬事業を推進するメタジェンセラピューティクス株式会社(以下、MGTx)。今年度のAMEDへの採択など社会的にもさらなる成長を続けている同社に、株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)は2021年に初回投資を実行し、医療・ヘルスケア分野への強みを活かしたハンズオン支援を行ってきました。

今回は、MGTx創業者の一人で代表取締役社長CEOの中原拓さんをお迎えし、同社の社外取締役にも就任しているFTI代表パートナー・安西智宏、アソシエイト・加藤尚吾との対談を通して、投資実行の経緯やMGTx側から見たVCとの関わりについて話を聞きました。

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「複数の文化をもった会社」明言する理由

FTI安西:国内で革新的な取り組みを進めるうえで、組織やチーム作りで心がけていることはありますか? 「こんな人がほしい」と議論してから3〜4ヶ月後には見合った人材を採用しているという印象なのですが…(笑)

異なるバックグラウンド・専門性を持つメンバーをどうマネジメントしているかもお聞きしたいです。

MGTx中原さん:採用は、タスク中心というよりも人中心で行っています。ジョブディスクリプションで細かいタスクひとつひとつをできる人を探すというよりも、あまり明確な線引きをせずにざっくり広い範囲で仕事を任せています。そうすると、もっと広範囲の仕事ができるという人、反対により狭めて専門性を突き詰めていくという人に分かれます。そうして空いた穴にフィットしそうな人をまた探して…のような感じで採用は進めていますね。

FTI安西:なんだか菌叢の分布みたいですね(笑)

MGTx中原さん:会社設立当初は自分が“チーフ雑用オフィサー”だと思って、研究開発以外のことはすべてやっていたんです。そのうちに、当たり前ですが能力やリソースが足りなくなり、足りなくなったところにフィットした人材を探してメンバーを増やして…ということをしていました。その結果、最後に残った私が会社に貢献できる要素が、“友達が多いこと”くらいしかないんじゃないかと(笑)

でも実際に人脈の広さを活かすことが重要だと実感しているので、かつての同僚やそのつながりで一緒に仕事ができるパートナーを見つけ、バイオベンチャーがあまりやらないようなtoC向けのブランディングにも力を入れています。どう見られたいのか・どう理解されたいのかをしっかり考えながら進めていますね。

FTI加藤:スタートアップとしては異例のデザイナー集団と一緒に、大手も羨むようなクリエイティブを作っていますもんね。

採用時にとくに重視しているポリシーはありますか? 人柄を見ている、パッションを大事にしているなど…。

MGTx中原さん:共通しているのは、MGTxの根幹である“石川大のスピリッツ”を理解してくれる人かどうかですね。石川が本気でFMTで患者さんを治そうとしていること、逆にそれしかないんだ、くらいに強い気持ちで一緒に望んでくれるかを見ています。

FTI安西:石川さんのパッションには私たちも会うたびに感化されています。

MGTx中原さん:性格についてはバラバラでいいと思っています。「会社の文化はコレです」とひとつ大きなものを提示するよりも、個性を尊重し合うことを重視し「“複数の文化”を持っている会社である」と明言しています。

お互い会社の一員といえど「ずっと一緒にいるとは思わないでおこう」ということも、社員全員が参加する合宿でいつも伝えています。会社自体は長く続くかもしれませんが、「このメンバーで一緒に頑張れるこの一瞬が奇跡」と思えたら、より相手を尊重する気持ちや思いやりの意識が芽生えると思うんです。

いつか会社を離れるときがきても、MGTxにいたことが次のステップへのキャリアアップになったら、それはそれでうれしいと思って送り出すよと入社時点で伝えています。

“献便”という新しい世界観

FTI安西:マイクロバイオームの新しい市場を創ろうとしている段階ですが、現段階で手応えは感じていますか?

MGTx中原さん:MGTxは医療と創薬の2軸で事業を進めているのですが、会社の成長に向けそれぞれ2パターンの目標があります。端的に言うと、医療は「社会的意義があることでお金を回せる会社になろう」、創薬は「長期的視野でグローバルで戦える会社になろう」という目標です。

そのように医療と創薬を両方進めていることをはじめ、FMTのドナー便を集めるために一般の方と接すること、患者さんとの距離が近いことといった「エンドユーザーが事業の流れのなかにいる」ことは、ベンチャーとしてはとてもユニークな点です。

それゆえ大変なこともたくさんありますが、さまざまな価値を生み出す可能性に期待感を持っています。今年4月に始動した「腸内細菌叢バンク」の運用と腸内細菌ドナーの募集は、献血のように自分の便が誰かのためになる“献便”という新しい取り組みです。

実際に適格ドナーとして選ばれれば、便でお金がもらえるという世界が実現します。そんな新しい潮流ができたら、世界観だけでなく、新しい経済圏やコミュニティが形成されていくでしょう。

FTI安西:研究開発に取り組むスタートアップだと一般の方などエンドユーザーと接する機会がなく、応援する方法が限られます。しかし、MGTxのこの取り組みにより、そうしたエンドユーザーがスタートアップを応援できる仕組みもできていくというのも良いですよね。

MGTx中原さん:資本市場においてマイクロバイオームがダウントレンドであるということは認識はしていますが、いずれにせよ大手の製薬企業などが参入するのは私たちのようなベンチャーの後。現状大手がいるところはすでに競争過多という意味ですから、まだないマーケットでこうして新しい価値観を創造しながら事業を進めていけることは良いことだと思っています。

そのなかで様々な企業とパートナーシップを結べるチャンスも出てくるでしょうし、そうした機会を活かしていきたいです。

「人と同じことをしていてはダメ」

FTI安西:資本市場、あるいは社会に対して、どんな存在・会社でありたいとお考えですか?

MGTx中原さん:エコシステムや会社の立て付けが重要視されているなかでも独自の型を積極的に見出して、どんなやり方でも最終的に患者さんが治る未来を作れる会社でありたいと思っています。

バイオベンチャーは、大手製薬など最終的なバイヤーの存在がないと難しいといわれています。アメリカは、大企業がよりイノベーティブなことをやるために内部で行っていたR&D(研究開発)の部分をオフバランス化し、自社のB/S(貸借対照表)から切り出してベンチャーで行い、業績がよければ買収するというやり方を編み出しました。

日本にはまだその動きがありません。大企業がR&Dを自分たちでやろうという風潮が強く、ベンチャーが出てきにくい環境になっています。そのことから、アメリカに倣うことがひとつの正解のように語られているのが現状です。

しかし、アメリカにはアメリカの、日本には日本の歴史があり、アメリカを先行事例として真似することで日本の発展が望めるとは限らないと思っています。私たちは私たちのやり方で、日本のエコシステムを作っていかなきゃいけない。

アントレプレナーシップといってしまえばそうなのですが、私は「人と同じことをしていたらダメ」だと思うんです。PhD(博士)は大学でそれをやってきたはずなんですよね。前人未到の研究をしたからこそ博士号を取得できているわけですから、それを起業でもやるべきです。開拓者精神こそアメリカンスピリッツなのに、アメリカという前例に従おうとしているのは大いなる矛盾です。

MGTxは、仮説検証を繰り返すことで誰もがまだ見ぬ新たな道を自らで切り拓き、患者さんに貢献できる世界を作っていこうとしています。また、そうした未来を一緒に描ける人たちとパートナーになっていきたいと思っています。


●メタジェンセラピューティクス株式会社
「マイクロバイオームサイエンスで患者さんの願いを叶え続ける」をミッションに、腸内細菌研究に基づいた医療と創薬でソーシャルインパクトを生み出す大学発スタートアップ。順天堂大学の医師と慶應義塾大学、東京工業大学の研究者が共同創業し、「腸内細菌叢移植(FMT)」の社会実装と「FMT起点のリバーストランスレーショナル創薬」を推進。現在は、免疫疾患(炎症性腸疾患)、がん、中枢神経系疾患の開発に注力している。

代表取締役社長CEO 中原拓さん
バイオインフォマティクス研究者としてキャリアを始め、のちに自身が関わった研究で2008年に北海道大学発ベンチャーを製薬企業とともに創業、約6年間ニュージャージー州でバイオインフォマティクス責任者を務める。その後、日系大手消費財企業、米系ベンチャーキャピタル、日系ベンチャーキャピタルで新規事業・スタートアップ投資を行う。2020年にメタジェンセラピューティクスを創業、CEOとして日本のアカデミア・企業発のマイクロバイオーム医療・創薬シーズの事業化を目指している。
北海道上川郡東川町在住。札幌市バイオビジネスアドバイザーとしてふるさとのバイオイノベーションエコシステム構築活動も行う。

●株式会社ファストトラックイニシアティブ 
「Capital For Life スタートアップの力を、いのちへ、くらしへ」をミッションに掲げ、バイオテック・ヘルステック領域に特化したベンチャーキャピタル・ファンドの運営を行う。日本発の卓越した技術・事業シーズを持つスタートアップへのハンズオン支援に注力し、独創的アプローチによる世界規模での新規市場創出を目指している。

代表パートナー 安西智宏
東京大学理学部生物学科卒業。同大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(生命科学)。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン校 AMP修了。ファンド運営責任者としてバイオテック・ヘルステック領域の案件発掘から企業設立、育成、投資回収までの業務全般を担当。代表取締役としての投資先企業の設立をはじめ、ハンズオンでの経営支援に15年超の実績を有する。FTI参画前は、アーサー・D・リトル(ジャパン)株式会社で国内外企業の経営コンサルティングに従事。東京大学特任准教授、京都大学客員准教授等を歴任。2012年には内閣官房 医療イノベーション推進室に在籍。「バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会」等の政府系委員を歴任。「Japan Venture Award 2021」ベンチャーキャピタリスト奨励賞受賞、Forbes JAPAN「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家2021」第2位。日本ベンチャーキャピタル協会 産学連携部会委員。

アソシエイト 加藤尚吾
技術経営学と機械工学をバックグラウンドとしており、2018年4月よりファストトラックイニシアティブに参画。主にヘルステック・メドテック領域における投資・支援に強みがあるほか、大学発スタートアップや事業会社スピンアウト案件の立ち上げにも注力している。東京工業大学 環境・社会理工学院 イノベーション科学系 博士後期課程修了。博士(技術経営)。