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【投資先対談】日本人の便が秘める可能性 “開拓者精神”で世界からのバトンをつなぐ|メタジェンセラピューティクス株式会社(前編)

投資先対談 MGTx

マイクロバイオームサイエンスを活用し、腸内細菌移植療法(FMT)に用いる製剤開発など医療・創薬事業を推進するメタジェンセラピューティクス株式会社(以下、MGTx)。今年度のAMEDへの採択など社会的にもさらなる成長を続けている同社に、株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)は2021年に初回投資を実行し、医療・ヘルスケア分野への強みを活かしたハンズオン支援を行ってきました。

今回は、MGTx創業者の一人で代表取締役社長CEOの中原拓さんをお迎えし、同社の社外取締役にも就任しているFTI代表パートナー・安西智宏、アソシエイト・加藤尚吾との対談を通して、投資実行の経緯やMGTx側から見たVCとの関わりについて話を聞きました。

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10年前のあの瞬間から「ずっと自分のボス」

FTI安西:じつは、MGTxへの初回投資を意思決定するとき、FTIの社内でも議論が紛糾しました。従来の創薬ビジネスの型にはまらない手法をとっていることに加え、腸内細菌系はすでにダウントレンドだという声もあり、将来の事業性について意見が分かれました。

ですが、個人的には「絶対に投資してやる」という気持ちがありました。その理由は大きく3つあります。

まずMGTxとFTIのミッションとが強く共鳴したことです。「マイクロバイオームサイエンスで患者さんの願いを叶え続ける」というMGTxのミッションは、FTIの理念である「Capital for Life」にフィットすること。また、MGTxは「いち早く社会にソリューションを届けていく」という強い思いを持った創業者たちと、その熱意のもとに各分野の精鋭たちが集う、とても強い組織であるということです。

また、私自身が投資検討をする際に、事業性や市場性以外の“ロジカルでない何か”を重要視することがあります。それは、「人の心に響く要素があるかどうか」「深い共感を得られるかどうか」「応援したいと思える要素があるか」ということ。MGTxの取り組みやメンバーの思いには、間違いなく人々の共感を生み、社会に新たな流れを作れる要素があると感じていました。

最後は、他ならぬ中原さんの存在です。MGTx創業前は、FTIのメンバーとして共に投資活動を行ってきた仲間でした。中原さんのことは、知り合ってからずっと、人を警戒させず、その人を輪の中に取り込むことにおいては天才だ、と本気で思っています。私自身もそのネットワークの中に取り込まれた一人で、MGTxが創業されて、投資する側とされる側という関係になった現在も、せっせと中原さんを応援させられています(笑)

MGTx中原さん:安西さんと初めて出会ってから、かれこれ10年くらいになりますね。私がFTIの門を叩いた頃からの付き合いで、私自身としてはあの瞬間から今でもずっと、自分のボスだと思っています。MGTxを創業してからもこうして投資をしていただき、応援ありがとうという気持ちです(笑)

サイエンスへの知見だけではないFTIの“専門性”

MGTx中原さん:お世辞でもなんでもなく、FTIが日本で一番良いVCだと思っているんですよね。その理由としては、「キャピタリストに自由(裁量)がある」ということ、「ファンドとして常に挑戦し続けている」と感じているからです。

FTIの強みとして、サイエンスへの専門性が高いことや老舗VCであることがよく挙げられていると思います。ただ、それだけではないと思っていて。例えば、今日できた製薬系のメンバーで構成されたファンドでも、その道の専門性が高いとは言えるわけです。

一方で、FTIの“専門性”とは、日本でバイオベンチャーがない時代からファンドを作り、大学発の知識を社会実装していこうとしてきたこと。つまり、医療・創薬などのサイエンスに関する知見があるだけではなく、カンパニークリエーションの専門性の高さも持ち合わせているのが強みだと思っているんです。

製薬業界はゲームのルールがある程度決まっていて、長期的な視野で最終的な買い手を想定し、フレームワーク(型)に落とし込むことが極めて重要です。ただ、MGTxはベンチャーであり、事業内容も先駆的であるため、まだ誰もしていないビジネスのやり方を見つけていくことが重要だと考えています。自分たちで道を作っていくというのは簡単なことではありませんが、FTIはその専門性を活かし寄り添ってくれるので、心強いです。

一般的には、型にはめよう・“正解”と考えられているものに合わせよう・どこかに答えがありそれを知っている誰かがいると考えるというような道をたどりがちなところ、そうではなく昔から正解を“作ろう”としてきたのがFTIで、そういう意味で国内で最も専門性が高く、日本で一番のVCであると考えています。

競争ではなく、市場をともに創っていく「リレー」

FTI安西:MGTxが型にはまらないという意識を持つなかで、国内・海外含めどのような独自性を持った会社だと認識していますか?

MGTx中原さん:現状としてMGTxは、FMTを強みに創薬ビジネスに限らない事業を展開していこうとしている途中です。

ただ、型にはまらない意識はある一方で、独自性を出そうとしているかといえばそうではない側面もあります。独自性って、いまある既存の競争が激しいマーケットにおいて、競合と差別化して優位性を獲得するために必要なものだと思っているんです。

ですが、マイクロバイオームの市場はまだなく、これから創造していく場所。海外のマイクロバイオームの会社は、今後競合する可能性はありますが、いまはまだ“一緒に市場を作っていく仲間”だと思っています。

2010年前後にできたフィンチ・セラピューティクスセレス・セラピューティクスは、大切な先輩という認識です。彼らがrCDI(難治性Clostridioides difficile感染症)の治療法として、現在よりも厳しい状況のなかでFMTの道を作ってくれました。

そのような取り組みを知ると「日本にはまだまだエコシステムがない」など言い訳をしている場合ではないという気持ちが湧き上がってきます。FMTの医療現場での活用という、0から1を成し遂げてくれた偉大な功績を彼らは私たちに残してくれた、私たちがつなげていかなければという気持ちです。

要は、競争ではなく「リレー」なんですね。そんな10数年前の成果というバトンを受け継ぎ、次は私たちがFMTを活用した医療・創薬を成し遂げていくという気概で事業にあたっています。実際に、そうした先輩方に事業への助言をいただいています。

そうして今後、世界でFMTの社会実装が果たされ市場が作られたときに、そこから競争が始まるのでしょう。そのときにはMGTxは先駆者として他社よりも相当先にいっていると思いますし、そのためにいま頑張りたいですね。

「日本が世界より優れている」という“仮説”

FTI安西:海外にそうした先行事例があるなかで、日本で事業を進める意義はありますか?

MGTx中原さん:まず1つ目は、MGTxの誇るFMTは、順天堂大学消化器内科の医師でMGTx創業者のひとりである石川大が、日本でデータを積み重ねてきた研究であるという点が大きいです。石川は、10年前当時まだ逆風だった国内でのFMT研究をたった一人で始め、日本人のドナー便を使ったFMTを日本人の患者さんに向けて行ってきました。この10年間の尊い蓄積は、MGTxが日本で事業を進めることの大きな強みだと思っています。

2つ目は、国内においてFMTが先進医療としてすでに適用された実績があったことが大きいです。滋賀医科大学が先人としてCDIの治療としてFMTをすでに行っていたことが、私たちの事業推進にとって非常にヒントになりました。

最後の3つ目は、これから証明していきたい仮説なのですが、日本人の“便の価値”の高さに期待をしているという点です。まず、世界的に見ても日本人の腸内細菌叢の独自性が高いことがわかっています。そして、歴史的な事実として、戦後の食の欧米化によりこの40年ほどで炎症性腸疾患が増加してきているというデータがあります。

このことから、日本人が古来より食してきた野菜や魚、穀物を中心とした和食が、腸の炎症を抑えることに役立っていたのではという仮説を考えています。つまり、日本人のドナー便を使うFMTを医療技術として確立できたら、“原料の質”として世界に勝てるかもしれないのです。

▶︎後編につづきます


●メタジェンセラピューティクス株式会社
「マイクロバイオームサイエンスで患者さんの願いを叶え続ける」をミッションに、腸内細菌研究に基づいた医療と創薬でソーシャルインパクトを生み出す大学発スタートアップ。
順天堂大学の医師と慶應義塾大学、東京工業大学の研究者が共同創業し、「腸内細菌叢移植(FMT)」の社会実装と「FMT起点のリバーストランスレーショナル創薬」を推進。現在は、免疫疾患(炎症性腸疾患)、がん、中枢神経系疾患の開発に注力している。

代表取締役社長CEO 中原拓さん
バイオインフォマティクス研究者としてキャリアを始め、のちに自身が関わった研究で2008年に北海道大学発ベンチャーを製薬企業とともに創業、約6年間ニュージャージー州でバイオインフォマティクス責任者を務める。その後、日系大手消費財企業、米系ベンチャーキャピタル、日系ベンチャーキャピタルで新規事業・スタートアップ投資を行う。2020年にメタジェンセラピューティクスを創業、CEOとして日本のアカデミア・企業発のマイクロバイオーム医療・創薬シーズの事業化を目指している。北海道上川郡東川町在住。札幌市バイオビジネスアドバイザーとしてふるさとのバイオイノベーションエコシステム構築活動も行う。

●株式会社ファストトラックイニシアティブ 
「Capital For Life スタートアップの力を、いのちへ、くらしへ」をミッションに掲げ、バイオテック・ヘルステック領域に特化したベンチャーキャピタル・ファンドの運営を行う。日本発の卓越した技術・事業シーズを持つスタートアップへのハンズオン支援に注力し、独創的アプローチによる世界規模での新規市場創出を目指している。

代表パートナー 安西智宏
東京大学理学部生物学科卒業。同大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(生命科学)。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン校 AMP修了。ファンド運営責任者としてバイオテック・ヘルステック領域の案件発掘から企業設立、育成、投資回収までの業務全般を担当。代表取締役としての投資先企業の設立をはじめ、ハンズオンでの経営支援に15年超の実績を有する。FTI参画前は、アーサー・D・リトル(ジャパン)株式会社で国内外企業の経営コンサルティングに従事。東京大学特任准教授、京都大学客員准教授等を歴任。2012年には内閣官房 医療イノベーション推進室に在籍。「バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会」等の政府系委員を歴任。「Japan Venture Award 2021」ベンチャーキャピタリスト奨励賞受賞、Forbes JAPAN「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家2021」第2位。日本ベンチャーキャピタル協会 産学連携部会委員。

アソシエイト 加藤尚吾
技術経営学と機械工学をバックグラウンドとしており、2018年4月よりファストトラックイニシアティブに参画。主にヘルステック・メドテック領域における投資・支援に強みがあるほか、大学発スタートアップや事業会社スピンアウト案件の立ち上げにも注力している。東京工業大学 環境・社会理工学院 イノベーション科学系 博士後期課程修了。博士(技術経営)。