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【投資先対談】プレシジョンイムノロジーで革新的な新薬開発 協調性と競争力を兼ね備えた強固なチームで挑む|Celsius Therapeutics

投資先インタビュー Celsius

1細胞RNA解析技術を活用した自己免疫疾患に対する画期的新薬の創出を目指している米Celsius Therapeutics(以下、Celsius)。株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)は2022年4月の投資実行発表前から、密なコミュニケーションをとりながら医療・ヘルスケア分野への強みを活かしたハンズオン支援を行ってきました。

今回はCelsius CEOのTariqさんをお迎えし、出資当初からキャピタリストとして同社をサポートしてきた、米ボストンオフィスで活動するFTIパートナーの原田泰、プリンシパルのKoji Yasudaとの対談を実施。投資実行の経緯やCelsius側から見たVCとの関わりについて話を聞きました。

初の海外投資先にCelsiusを選んだ理由

FTI原田:CelsiusはFTIにとって初めての海外投資先です。ボストンオフィスを設立し、米国での活動を開始した当初から注目していたバイオテクノロジーの分野が、プレシジョンイムノロジー(免疫疾患個別化医療)や1細胞RNA解析でした。市場調査や専門家との議論を重ねるなかでCelsiusへの高い評価を聞きコンタクトを取ったのが、出会いのきっかけです。

FTI Koji:私が米ブロード研究所で博士過程在学中だった当時、1細胞シーケンシングの先駆けとなる研究が行われていました。今後プレシジョン・メディシンが発展することで、慢性疾患や自己免疫疾患への応用が期待できるという期待を持ちました。

その後、FTIに参画しCelsiusへのサポートに携わるようになりましたが、Celsiusの技術力の高さはもちろんのこと、これから始まる新規治療法開発への取り組みを目の当たりにし、とても興奮したことを覚えています。

FTI原田:プレシジョンイムノロジーは、特定の患者層に対してより優れた新薬を創出したり、そのような可能性を持つ治療標的を発見できる可能性を秘めた、新しい医療技術として注目が高まる分野です。

一方で、さまざまな疾患により広く活用できるということは、多くのデータ収集・分析を必要とするという意味でもあります。さらに、そのデータを最も有効で有意義な用途に活用できるように、進むべきベクトルを定めることも重要な課題になってきます。

そうした技術・ビジネス双方のさまざまなハードルを乗り越え、会社として成立させるということは一筋縄ではいかないことです。Celsiusが持つ技術力の高さはもちろんのことですが、それだけではなく臨床面での実現性における課題を解決できる素晴らしいチームであるということが、FTIがぜひ出資をしたいと思った理由であり、現在もCelsiusへの信頼感に繋がっている要素のひとつです。

サイエンスとビジネスを両立する強固なチームづくりの秘訣

FTI原田:非常に高い協調性がありながら、同時に競争性も持ち合わせているというチームであるということが、Celsiusの企業文化だと感じています。社内の風通しもよく、情報が常に共有されている。そのような強固なチームを作るために、意識していることは何でしょうか?

Celsius Tariqさん:CelsiusはBioSpace社やThe Boston Globe社による「働きがいのある会社」として、2つの栄誉な賞を受賞しました。一方でそれは、Celsiusが“働きやすい”会社というわけではないということです。

メンバーみんな、本当に一生懸命に働いています。良い成果に向け、問題に真摯に立ち向かい、ときにはハードに働かなければならない。決して楽な仕事ではありませんが、それが結果的に非常にやりがいのある仕事に繋がっているということだと思います。

そうした文化を形成できたのは、優秀な人材を採用することができたからです。シニアレベルの優秀なChief Scientific OfficerやChief Medical Officerが在籍していること、またそういった最高責任者を、モチベーションが高く協調性があり、サイエンスへの深い理解があるメンバーたちがサポートしていること。

Celsiusは科学的なポテンシャルを評価されることが多いですが、実際は戦略的に集めた優秀な人材たちが、常に貪欲に結果にこだわり続けるチームになり得ていることこそが、Celsiusの企業価値を高めている重要な要素だと感じています。

FTI原田:そうしたチームをまとめあげるのは、大変ではないですか?

Celsius Tariqさん:もちろんとても難しいこともあります。最終的には組織のリーダーとして、決断を迫られる場面もあります。そのようなときに大切なのは、意思決定に透明性を保ち、チームへの思慮を欠かさないということです。

どのような根拠でその決断をしたのかを明確にし、意見が反映されなかった人をフォローすることも大切です。そのような場面で理解を得られるのは、その人の人間性が高いからです。だからこそ、採用時点での人材の見極めが本当に重要だと考えています。

また、社内の誰もが良い緊張感を持ち、それぞれの仕事に説明責任を果たす文化を作ることが、現在のCelsiusのチームを作り上げていると思います。

サイエンスへの深い理解と長期的視野でのサポート

FTI原田:FTI以外にも有名VCから投資を受けているCelsiusですが、投資を受け入れる判断材料は何でしょうか?

Celsius Tariqさん:経済的なサポートだけではなく、会社というチーム全体の価値を高めてくれる投資家かどうかということを見ています。

なかでもFTIは、出会った当初の議論から市場におけるプレシジョンイムノロジーの将来性や1細胞解析に対する深い理解がありました。FTIからの問いは事業戦略や科学的妥当性を再度深く考える機会を与えてくれるようなものでした。現在も厚い信頼のおけるパートナーとして、心強く感じています。

FTI 原田:1細胞解析自体が、学術的にも比較的新しい、近年進展した技術でありデータの適切な活用が難しいという特性があります。

それゆえ、新規標的やファーストインクラスの新薬を生み出す可能性を秘めた研究分野でもあります。新薬開発には膨大な時間と労力がかかりますが、その達成に向けサイエンスとビジネスの両輪をまわし事業を加速させているCelsiusの推進力には、目を見張るものがあります。

Celsius Tariqさん:多くの投資家は早期の投資回収を求め、すぐに結果が出るような領域で投資先を探す傾向があります。一方で私たちのようなスタートアップとしては、サイエンスへの理解はもちろん、企業成長を長期目線で考え、サポートしてくれる投資家を必要としています。

この分野に深い理解があり、新薬開発という長い戦いに寄り添ってくれること、それがFTIからの投資を受けることを決めた1つ目の大きな理由です。

日本の製薬企業とのネットワークをはじめ、ある“共通点”があった

Celsius Tariqさん:また、日本の製薬企業とのネットワークを持っていることも魅力的でした。それがFTIから投資を受けた2つ目の理由です。実際にトップを走る製薬企業の経営者・リーダーの紹介など、貴重な機会を与えていただきました。

また、じつは私と原田さんは、武田薬品工業での経験を通じた多くの共通の知人がいたため、FTIについて好意的な評価を聞くこともできました。

FTI原田:私もTariqさんについて、共通の知人から話を伺っていました。話を聞いたすべての人が、サイエンス面の能力をはじめ、ビジネス、リーダーシップ、マネジメントなどさまざまな観点からTariqさんを高く評価していました。そういったことからも、Celsiusが素晴らしい会社であるという確信を持ちました。投資実行から3年が経った今でも、Celsiusのような強固なチームと協力関係にあることをうれしく思っています。

FTI Koji:私も原田さんと同じ意見です。Tariqさんは医師である上にビジネスとリーダーシップにも強みを持っています。Tariqさんのような人と出会えることは非常にレアなことで、FTI初の海外投資先としてCelsiusというチームをサポートできるということは、とても貴重な機会であると感じています。私自身、Tariqさんとの関わり合いのなかでさまざまなことを学んでいます。

景気の荒波にも負けないハンズオン支援

Celsius Tariqさん:実際にFTIから投資を受けた後、期待していた日本の製薬企業の紹介だけではなく、それ以上のものを提供してくれたと感じています。たとえばFTIからの紹介がきっかけで『日本経済新聞』にCelsiusの取材記事が掲載され、日本の製薬業界への大々的な露出機会を得ることができました。FTIのサポートにより、日本でのビジネスを考える良いきっかけになったと感じています。

バイオテクノロジーという分野は、市況のアップダウンが激しい業界でもあります。たとえ業界全体が困難な時期であっても、好調な時期であっても、そうした業界の特徴を深く理解しているFTIだからこそ景気の波に左右されずに安定した協力関係をとることができました。

FTIからの初回投資は2021年でしたが、その年の好景気が一転、2023年になるとバイオテック企業にとって非常に厳しい時期を迎えました。Celsiusも辛い状況を経験しましたが、FTIを含む主要な投資家からは継続した支援を受けることができ、Celsius最初の医薬品となる炎症性腸疾患(IBD)治療のための抗体医薬の第I相臨床試験(Phase1治験)を順調に進めることができました。

そこから非常に良好なデータを取得することができ、FTIの支えなくしては成し遂げられなかったと感じています。Celsiusは今後もさらなる技術革新と新規治療法開発に向けて、FTIと一緒に邁進していきたいと思います。

FTI Koji:Tariqさんと出会えたこと、Celsiusをサポートできることをあたらめて光栄に思います。

FTI原田:Celsiusの革新的な取り組みを今後も支えていきたいと思っています。

●Celsius Therapeutics
Broad研究所発のシングルセルRNA解析技術に、AI・機械学習モデルと大規模な臨床検体収集を組み合わせ、画期的な創薬を行う。深い疾患バイオロジーの理解を核に、新規標的探索や、患者層別化によるプレシジョンメディシンに取り組む。
https://celsiustx.com

Tariq Kassum, M.D., Chief Executive Officer 
M.D., University of Toronto. B.A. in biology and French literature, Cornell University. 
ミレニアム・ファーマシューティカルズ社、武田薬品工業(ボストン)、オブシディアン・セラピューティクス社などを経て、2019年よりセルシウスCEOに就任。

●株式会社ファストトラックイニシアティブ 
「Capital For Life ベンチャーの力を、いのちへ、くらしへ」をミッションに掲げ、バイオテック・ヘルステック領域に特化したベンチャーキャピタル・ファンドの運営を行う。日本発の卓越した技術・事業シーズを持つベンチャーへのハンズオン支援に注力し、独創的アプローチによる世界規模での新規市場創出を目指している。

パートナー 原田泰
東京大学工学系研究科化学生命工学専攻修士。シカゴ大学大学院経営学修士 (MBA)
マッキンゼーアンドカンパニージュニアマネージャー、米国シカゴ大学留学、ARCH Venture Partners投資コンサルタント、Chicago Innovation Fund投資アソシエイト、武田薬品工業ボストンオフィス事業開発インターン・コンサルタントを経て、2019年よりFTI参画。

原田泰のインタビュー記事はこちら

プリンシパル Koji Yasuda
PhD in Computational Biology, Harvard University. (Broad Institute of MIT and Harvardにて博士課程研究を推進) Doctor of Veterinary Medicine (DVM) degree, Cornell University.
Kintai Therapeutics社(現Senda Biosciences社)創業メンバー。ハーバード大学博士課程時代の研究成果が、Kintai社の知的財産の基礎を担う。武田薬品工業(ボストン)、ファイザー社で臨床バイオマーカー戦略の開発を主導。2023年よりFTI参画。