News

【投資先対談】産業医業界を先導する企業へ 新たな市場の創出、上場までの道のり|株式会社メンタルヘルステクノロジーズ(Before IPO編)

MHT対談

企業の健康経営の基盤のひとつである「社員の心の健康」に着目し、厳選された産業医の紹介を行う「産業医クラウド」をはじめ、従業員の健康をサポートするさまざまなサービスを展開している株式会社メンタルヘルステクノロジーズ(以下、MHT)。

株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)は、2017年初回投資時からリード投資家として支援を行い、2022年3月に東証マザーズ上場を果たしたのちも、さらなる企業成長のために支援を行ってきました。

今回は、MHT代表取締役社長の刀禰真之介さんと取締役社長室長兼コーポレート本部担当の松浦優さんをお迎えし、FTI代表パートナー・安西智宏、ベンチャーパートナー・佐藤正晃との対談を通して、FTIの投資実行の経緯やMHTとしてのVCとの関わり方について話を聞きました。

▶︎安西智宏のインタビュー記事はこちら
▶︎後編(上場後の資本政策お話|After IPO編)はこちら

業界として未成熟だった産業医の世界

FTI佐藤:私は2016年に当時からMHT子会社Avenirの顧問産業医であった三宅琢先生から紹介を受けてMHTと出会い、2017年6月の初回投資から上場直前の2021年12月末まで、4年半の間、社外取締役として同社に携わりました。上場後は安西と共に、MHTが上場市場でも着実に企業成長できるようFTIとして支援を続けています。

MHTは創業当初学会に関するITサービスをメイン事業としていました。そこから産業医の紹介サービスにシフトしてきていたタイミングで、MHTとFTIは出会いました。

MHT刀禰さん:私はコンサルや金融系のキャリアを積んできましたが、あるとき体調を崩して医師である弟に助けられました。弟とは以前から「将来一緒に仕事をする」という約束をしていたこと、お世話になった医療業界への力になりたいという思い、また、精神科医である義妹から「産業医をやるきっかけがない」という業界の状況を聞き産業医業界の社会問題に気づいたことから、現在につながる事業がスタートしました。

産業医の集まりに顔を出しては顔見知りの先生を増やしていくという地道な活動から始めたときに、当時はまだ駆け出しであった三宅先生と意気投合。2016年に関東中心で事業を始め、2017年に全国展開するというタイミングでFTIの佐藤さんと出会いました。

FTI佐藤:当時、「メンタルヘルス」は大企業がやっと注目し始めてきたくらいの時期で、刀禰さんの先見性を感じました。今でこそ健康経営の重要性が叫ばれるようになりましたが、すでに2017年の段階で刀禰さんは「産業医クラウド」というワードを使っていて、FTIのなかでも今後ニーズの高まりを期待できると合意がありました。バイオ系の研究者ではなく、金融・IT系のバックグラウンドを持つ起業家への投資というのはFTIでは初めての投資案件でしたので、社内でも長期間デューデリジェンスを行いました。

MHT刀禰さん:異分野のバックグラウンドがありながら私がメンタルヘルスに着目したのは、社員が精神的に病んでしまったことも理由にあります。精神的な病の予防法が確立されていないという現状を変えたいという気持ちがありました。産業医の業務は医師が行うものでありながらメディカルというよりも、診察をしないため、ヘルスケア要素を強く帯びています。医療に至る前(診療前)の重要な役割を帯びているにもかかわらず、当時は産業医業界そのものが未成熟で、しかしその一方で、企業からのニーズは高まっていくことが見込まれた。そこに切り込むため、産業医のサービスを始めました。

業界に理解のあるVCが少ないなか、サービスの核心を理解してくれたのがFTI

MHT刀禰さん:産業医集めは小さく始め、地道に数を増やして行きました。学会での出会いや医師同士の紹介で、2016年に開始した年は10人前後の産業医から、2017年には全国規模に発展しました。今まで培ってきた学会向けのサービスで医師のアカウントがそれなりにあったので、全国対応に不安はなく、サービス評価も良好だったため、スケールするタイミングと判断しました。

一方で、資金繰りにはとても苦労しました。産業医紹介事業において、産業医の「派遣」ではないという点を投資家に理解してもらえなかったのです。そんなとき、FTIの佐藤さんはじっくり話を聞いてくれました。粗利の改善や収益向上のためのシステム化を一緒に検討するなど、力になってくれました。

FTI佐藤:産業医事業の立ち上げ当初、検討をしていた投資家はFTIのみでした。医療・ヘルスケア業界への造詣が深いVCが多ければ資金調達ももっとスムーズにいったとは思いますが、企業が独自に手配する産業医をクラウドという形で集積し紹介するというサービス自体が、当時は先駆けすぎたのかもしれません。

MHT刀禰さん:産業医のマーケットを形作るためにも、FTIの業界への知見の深さには信頼を置いています。何でも相談しやすく、リード投資家になってほしいと感じていました。業界への知見があまりない投資家にピッチする際には一定の説明コストも発生しましたが、佐藤さんがコミュニケーションのハブになってくれることで、MHTとしてはとても助けられました。

FTI佐藤:MHTの中でも刀禰さんの次に古株なのが私ですからね(笑)

MHT刀禰さん:当時は事業成長させるための正攻法というものが存在しない時代でしたので、できる施策をとにかく実行していきました。非常に多くの広告費をかけて、デジタルマーケティングを行ったこともあります。

FTI佐藤:デジタルマーケティングが産業医業界に通用するのかなんて先行事例はありませんでしたね。でもやれることはやるという姿勢を私も信じ、巨額の広告費に何も言わずに社外取締役の私も承認。刀禰さんの推進力を信頼していたからです。顧客や投資家を得るにはピッチコンテストなどに出る場合もよくありますが、MHTは表に出るよりもとにかく事業を作ることに時間を使っていました。結果的にそれが功を奏しました。

一緒に考え走ってくれるVCこそが、何ものにも代えがたい

FTI佐藤:そのうち徐々にメンバーも増えていき、事業基盤が強固になりました。上場準備をする際に刀禰さんが前職の上司を管理部長として引っ張ってくるなど、刀禰さんの人を巻き込む力、人との関わり方を大切にする姿勢はFTIも注目していました。

MHT刀禰さん:いかに信用してもらえるかは常に考えていました。こちらのプレゼンに耳を貸し力になっててくれるFTIは、とても信頼することができました。

FTI佐藤:MHTの事業内容を評価していたので、刀禰さんの行動を制限するようなことはしたくなかったんです。長期的な視野でのビジネスになるので、その瞬間でセーブしてしまうということは避けたいという思いがありました。

MHT刀禰さん:さらにFTIは、業界のニーズの把握や、省庁関連のパイプに強みがありました。顧客を紹介してくれるようなVCはたくさんいますが、それよりも戦略を一緒に考え、事業を形作ることを手助けをしてくれたことが、MHTの前進につながりました。

MHT松浦さん:成長のために奔走してくれること、また、長いVC経験や個々人の“地に足がついた”バックグラウンド、業界への知見。それがFTIと一緒にやってきてよかったと思う点です。

MHT刀禰さん:FTIのトラックレコードもそうそうたる顔ぶれですよね。そこに入りたいという気持ちも強かったです。

FTI安西:MHTとはいちサービスとしての視点に限らず、ヘルスケア全体の中での事業の位置付け、意義など深い議論ができていました。壁打ちするときも深い議論ができ、コミュニケーションコストが必要ないというのも、MHTをサポートする上で感じました。

MHT対談
(左)MHT代表取締役社長・刀禰真之介さん (右)FTI佐藤正晃

●株式会社メンタルヘルステクノロジーズ
「ウェルビーイングのスタンダードを創る」というビジョンを掲げ、労働者のメンタルヘルス問題解決、産業医を軸にクラウドサービスを活用した企業のメンタルヘルスのケア体制の構築・運用に取り組む。
https://mh-tec.co.jp

代表取締役社長 刀禰真之介さん
神奈川県出身。明治大学政治経済学部を卒業後、2002年にデロイト トーマツ コンサルティング株式会社(現・アビームコンサルティング株式会社)、2004年にUFJつばさ証券株式会社(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社)、エンジェルジャパン・アセットマネジメント株式会社、2008年に株式会社環境エネルギー投資で勤務。ヘルスケア領域の社会問題を解決できるような事業に取り組みたいと志し、2011年3月に株式会社Miew(現・株式会社メンタルヘルステクノロジーズ)創業。

取締役社長室長兼コーポレート本部担当 松浦優さん
埼玉県出身。慶應義塾大学経済学部を卒業後、2015年よりみずほ銀行にてM&Aアドバイザリー業務及び資金調達業務に従事。2016年にリンカーン・インターナショナルにて主に日本企業による海外M&Aのアドバイザリー業務に従事。2019年より外資系PEファンドであるICGの東京オフィス立ち上げに際して立ち上げメンバーとして参画し、消費財・ヘルスケア関連業界を中心にアジア・太平洋地域における投資を担当。2022年当社入社。第一生命保険、H.U.グループ、オムロンとの戦略的パートナーシップ構築、株式会社明照会労働衛生コンサルタント事務所のM&A等を主導。

●株式会社ファストトラックイニシアティブ 
「Capital For Life ベンチャーの力を、いのちへ、くらしへ」をミッションに掲げ、バイオテック・ヘルステック領域に特化したベンチャーキャピタル・ファンドの運営を行う。日本発の卓越した技術・事業シーズを持つベンチャーへのハンズオン支援に注力し、独創的アプローチによる世界規模での新規市場創出を目指している。

代表パートナー 安西智宏(安西智宏のインタビュー記事はこちら
東京大学理学部生物学科卒業。同大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(生命科学)。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン校 AMP修了。ファンド運営責任者としてバイオテック・ヘルステック領域の案件発掘から企業設立、育成、投資回収までの業務全般を担当。代表取締役としての投資先企業の設立をはじめ、ハンズオンでの経営支援に10年超の実績を有する。FTI参画前は、アーサー・D・リトル(ジャパン)株式会社で国内外企業の経営コンサルティングに従事。東京大学特任准教授、京都大学客員准教授等を歴任。2012年には内閣官房 医療イノベーション推進室に在籍。「バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会」等の政府系委員を歴任。「Japan Venture Award 2021」ベンチャーキャピタリスト奨励賞受賞、Forbes JAPAN「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家2021」第2位。日本ベンチャーキャピタル協会 産学連携部会委員。

ベンチャーパートナー 佐藤正晃
宮城県出身。明治大学商学部卒、同大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科修了 経営管理修士(MBA)。マイクロソフト パブリックセクター 部長、日本医療部門総責任者。その後、バイエル薬品 経営企画統括本部 部長として、医薬品デジタルマーケティング部門の統括、DX戦略策定・戦略実践を行う。2015年1月からファストトラックイニシアティブ参画、ヘルステック分野の投資を統括する。川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター 研究員等を歴任。